左端を探して

見つけたら教えてください

そうやってバランスを取っている

宣言通り、今日は昼休憩の時間に管理会社に電話をして、いま住んでいる部屋の故障箇所を伝えた。ゴミ捨て場に貼ってある管理会社の連絡先(ご丁寧に修理・修繕はこちら、みたいな案内まで書いてあった)に電話をしてみたら、「現在使われておりません」という女性の声のアナウンスが聞こえてきて、完全に一度心を折られた。スタートに戻る。
でもここでめげるわたしではない。わたしにはネットがあるじゃないか、と思い直し、入居時に鍵を受け取りに行ったとき以来に管理会社の名前を検索する。あのときは場所だけがわかればよかったので深く調べていなかったけれど、入居者用の電話番号にたどり着くまでに、その管理会社の酷評をいくつか目にして不安になる。1回休み。

やっと電話番号を見つけてガイダンスに従うと、そこそこ待たされたところで気だるげなカスタマーサービスに繋がる。そのゆるさに先ほど見かけた酷評がよぎったけれど、喋り方が気だるいだけで対応はよかったので一安心。明日大家さんに相談して、修理業者さんから直接連絡が来るとのことだった。2マス進む。

心の隅にあったもやもやが解消できたらからか、仕事にも昨日よりは集中できた。夕食は少し前に作った餃子を焼かないまま冷蔵庫に入れてあったので、それを焼いて食べることにした。美味しそうに焼き上がった餃子をお皿に移し、ソファに座ってテレビを見ようと思ってソファの肘掛に置いた。わたしの持っているソファは木の枠にクッションが乗っているタイプのものなので、肘掛も木で出来ていてちょっとしたお皿くらいなら置くことができる。最近はローテーブルに乗せて床に座って食べるのが面倒くさくて、肘掛に置いて食べることが多い。餃子のタレを入れた小皿と、適当に手に取ったグラスに炭酸水を注いでそれらも肘掛に置いた。いい感じで1日が終わりそう。ゴールは目の前だった。

ご飯の用意が済んで、ほっと一息ついて、さあ食べよう、と思ったそのとき、肘掛に置いていたグラスを肘で押してしまい、肘掛から落ちたグラスが割れた。少し前に土鍋の蓋を割ってしまっていたので、それがフラッシュバックして、割れた現場を見てもいないのにとても悲しくなった。そして、割れてしまったグラスを見てさらにショックを受けた。割れたのは、8つ離れた弟が去年誕生日にプレゼントしてくれたペアグラスの片割れだったのだ。もう完全に、スタートに戻る、もしくは、借金清算のための謎の島送り。

ペアのものをひとつ失くしてしまうと、もともとひとつだったものを失くしてしまうよりも悲しい。きっと、ひとつのものはその内に失くしたことすら忘れてしまうけれど、ペアのものは片割れが残っているので、それを目にする度にあったはずのもうひとつを思い出してしまうからではないだろうか。

思春期から抜けきっていない弟が、恥ずかしさもあっただろうに女性向けの雑貨屋さんに行って選んでくれたペアグラス。リボンを持ったミッキーマウスとミニーマウスのイラストが書いてあって、冷たい飲み物を入れるとリボンに青とピンクの色がつくようになっている。丸みがあったので、保管しておくときに少し苦労したけれど、ビールを飲むときとかにちょうど良いのだ。

悲しい。あんな横着をしなければ、という後悔ばかりが駆け巡る。はあ。

残った片割れに冷えた炭酸水を注ぐと、リボンがピンクに色づく。割れてしまったグラスを片付けているとき、悲しみが先に立って確認していなかったけれど、失くなったのは青色になるグラスだったらしい。

1日の5分の4くらいまではうまくいっていたのに、最後の最後に転んでしまった。あんまりそういう思考は好きじゃないけれど、人生ってこうやって幸せと不幸せのバランスを取っているんだろうか。残ったもうひとつのグラスは、大切に使おう。